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<ガソリン生活のあらすじ>
望月家の愛車・通称緑デミには、その日望月家の長男・良夫と次男・亨が乗っていた。
自宅へ戻る途中の緑デミに、30半ばの女性が飛び乗ってくる。
それは地元の名家の生まれで、元女優の荒木翠。
不倫相手の丹羽が事故を起こしてしまった為、記者に見つかる前に翠だけその場を離れ、良夫の車に飛び込んだのだ。
その名のとおり人がいい良夫は翠が告げた目的地まで彼女を車で送る。
翌日。翠は、不倫相手の丹羽と共に事故で死んだ。
強引なフリー記者を猛スピードで振り切ろうとしたあげくの交通事故だった。
緑デミが、前日に翠を乗せた事を記者が聞きつけ、良夫に接触をする。
次男・亨の発案で、記者とのインタビューは緑デミの中で行われた。
記者と良夫の会話や車達の噂話から、緑デミは「記者が翠と結託をして事故を偽造。翠と丹羽を逃したのかもしれない」という推理を組み立て、隣家の愛車・ザッパに披露する。
「では実際に事故車の中にいたのは誰だんだ?」
ザッパは緑デミの推理に疑問を呈する。
少し前から望月家の長女、まどかの様子はおかしかった。
つきあっている彼氏、江口がトラブルに巻き込まれているらしい。
緑デミは江口の愛車から、彼が昔の友人に厄介事を押し付けられている事を聞きつけていた。
しかし自分たち車の声は、望月家の人間には届かない。
亨がまどかの異変の原因をつきとめた。
母・郁子により家族会議が開かれ、まどかから全てを聞き出した。
郁子と亨は、江口に会うためまどかに内緒で彼氏のファストフード店に行った。
江口本人は予想に反して好青年だったが、彼に厄介ごとを持ちかけているトガリとその子分は、金のためには人すら殺す、シャレにならない悪党だった。
のらりくらりと逃げ続ける江口を探していたトガリの子分が、ファストフード店に乗り込んでくる。
トガリは少し前から行方をくらませていたが、彼のいない間に処理をしないとやばい事態が発生。彼らもまた焦っていた。
彼らが江口に死体を運ばせようとしている。
緑デミはトガリの子分の愛車から、その事実を聞かされ驚愕する。
もちろん望月家の人に彼の声は届かない。
死体を運ばされると知らない江口は彼らの指定した場所へ向かう。
止めようとするまどかが呼びだされ、まどかの不在に気づいた望月家の面々もまた、トガリの子分に捕まってしまう。
江口の代わりに、郁子と良夫を運び屋にしようと考えた子分たちと小競り合いになる望月家。
絶体絶命のピンチを救ったのは、ザッパで現れた隣の家に住む細身氏と、ジャーナリストの玉田憲吾だった。
捕まってもなおトガリを恐れる子分たちに玉田は「トガリが現れることは二度とない」と告げた。
<ガソリン生活の登場人物>
デミオ(緑デミ)……望月家の愛車
ザッパ……望月家の隣家。細身氏の愛車。古いカローラ
望月亨(10)望月家の次男。可愛げがない程に聡明
望月良夫(20)望月家の長男。名前のとおりの善人
望月郁子(??)シングルマザー
望月まどか(17)望月家の長女。
荒木翠(30半ば?)かっての大女優。名家の生まれで資産家。一般人の荒木と結婚
玉田憲吾(40代半ば)フリーのジャーナリスト
丹羽氏(40代)翠の浮気相手。祖父の著作物管理で生活している
細身氏(??)望月家の隣人。小学校の校長。自発的に夜回りをしている
江口(20代前半?)まどかの彼氏
トガリ(30代前半)歯科医の放蕩息子。子分を引き連れ、悪事を働いている
<ガソリン生活の特筆すべき点>
★ 車が主人公という設定が目を引きます。
カーズ、トイストーリーなどと違うのは、自分の意思はあるが自力では行動することができない事。
そのため、物語の中心は常に「人間」であり、擬人化された車達は人間社会の出来事を傍観する立場に置かれている点にあると思います。
◯ 主要登場人物が伊坂さんの作品にしてはアクがないように感じられました。
だからといって作品の面白さを損なっていることはなく、むしろ「乗用車が主人公であり語り手」という特殊な設定が、浮き上がらないようにしていると思いました。
◯ トガリ一味に、ついに望月家が巻き込まれる部分が物語のクライマックスだと思うのですが、そこから先が割と長い印象がありました。
残った謎が、クライマックスの後に小出しに小出しに提示されていくという印象があります。
車が語り手であり、車内または車体のそばでの会話、もしくは車同志の噂話でしか情報をすることができない。
この設定があるため、事故当日の出来事を玉田の回想で語る事できなかったからなのかもしれません。
◯ 本作は緑デミの視点で語られていきます。
つまり読者と緑デミが真相を知るのが同じタイミングになります。
結果、その事実をまだ知らない望月家がどうなっていくのか?
緊張感をもってページをめくる事になっているように思います。
◯ 緑デミは車同志の噂話から、いち早く真相に気がつきます。
しかし彼は人との意思疎通ができません。自分が知っている事を伝えられないというカセも、読者をじらし、興味をひきつけているように思いました。
伊坂幸太郎さんの他の著作への感想
トガリは翠と丹羽が通っていた歯科医の息子であり、彼らの不倫をマスコミにばらした張本人だった。
翠はトガリの常軌を逸した異常さに気づき、玉田を巻き込み、トガリを捕まえようとする。
下世話なジャーナリストとしての能力を活かし、トガリを張っていた玉田。
しかしトガリは玉田に勘づき、その場を逃げ去る。
そしてトンネルで事故を起こした。
燃えさかる車を見ながら玉田は考える。
死んだのは翠と丹羽という事にして、常に視線にさらされる生活を送る丹羽と翠を自由にしてはどうか?
結果として緑デミの推理は的中していた。
事故の真相を車はみんな知っている。しかし人間は誰もこの事を知らない。