StudioLUNCHBOX

フリーランス3年目の映像クリエイター。スタジオランチボックス主宰の高橋雅紀がフリーランスとしての気づき、映像制作、シナリオ作成のTipsなどを紹介しています

スタジオランチボックス インタビュー 高橋雅紀(主宰・監督・『あの日の海で知った』脚本)・溝田美幸(『片えくぼ』脚本)

短編映画・Webドラマ・オーディオドラマと多岐にわたる制作活動を展開するスタジオランチボックスは、映像制作集団でも、劇団でも、シナリオ制作チームでもないのに、そのすべての要素を持ったユニット。その活動について、また新作『片えくぼ』『あの日の海で知った』の制作エピソードも併せて、主宰の高橋、シナリオライターの溝田がインタビューに答えています

(インタビュー・構成:丸田カヨコ @kayoko_maruta

 

 

シナリオライターがたくさんいて、監督は1人だけという制作集団は珍しいかも

 

――まずはスタジオランチボックスのことをお聞きしたいです。高橋さんが立ち上げて、溝田さんがそこに関わってるそうですが、そもそも、立ち上げのきっかけは何だったのですか?

高橋:自主制作映画を撮り始めたことですね。映画祭に応募するときに、グループ名がないと申込書類の空欄が多くなるので「スタジオランチボックス」という名前を付けて活動を始めました。

今はボクも含めた4~5人のメンバーで代わるがわる脚本を書いて、それを元に映画やオーディオドラマを作っています。

 

――劇団に近い印象ですが、役者がメンバーというわけではないんですね。

高橋:自主制作映画の場合、監督が数名で集まっているグループは他にもありますよ。ただ、監督は1人だけで、シナリオライターが何名もいるグループは多分珍しいですね。

溝田:私はシナリオの学校で高橋くんと同じクラスだったので、「手伝ってよ」がきっかけで参加するようになりました。10年近く前だから……最初はどの作品だったっけ?

高橋:『ごくごくふつーのっ!』だね。それまでは、1人でカメラを回して撮っていたんです。でも『ごくごく~』の前の作品で賞を獲って、あちこちの映画祭へ参加させてもらったこともあり「もう少し頑張ろう」と、プロのカメラマンさんに撮ってもらうことにした。ただ、来てもらうには自分側のスタッフが足りなくて。それで声をかけたうちの1人が溝田さんだったんです。

 

――映画だけでなく、オーディオドラマを作るようになったきっかけは何だったんでしょう?

高橋:予算も時間もマンパワーもかかるので(微苦笑)。そこで、オーディオドラマなら、役者がいればカメラも照明も撮影スタジオも衣装も要らない。それに旧知のシナリオライター陣が揃っていて、脚本のクオリティは担保できるので、良いものが作れる、と考えたんです。ちょうど当時FMラジオ局でオーディオドラマのシナリオを書いていたのもありますね。

実際やってみると、どうやって音だけで環境とか動き、場面の変化を表現するのか?など実写にはない難しさもたくさんあって、物を作る大変さという点ではあまり変わりはないのですが^^;

 

 

実写作品だと難しい時代劇も、オーディオドラマなら音で場面を再現できる

 

――今回制作した2作品について、制作のきっかけや経緯などを教えていただけますか?

高橋:2作とも書き下ろしではなく、リーディング団LttSの朗読劇に提供した作品からピックアップしています。「誰かにうまいこと作られちゃうと悔しいから、自分ならこうする、という形を作っておきたい」と思ったのが『片えくぼ』ですね。

そして「せっかく収録用にスタジオを借りるなら、もう1本なにか作ろう」と考えた時に、朗読劇で評判がよかった『あの日の海で知った』を組み合わせるといいんじゃないかと。すごく明るい話とすごく暗い話の組み合わせよりも、ちょっとダウナーな作品同士の方がいいかなと思って。

溝田:『片えくぼ』はかなり前に書いたものなんです。それも先にお話ししたシナリオ学校の課題でした。「時代劇」という課題があって、私は時代物をまったく知らないので、時代劇をよく書かれている先生の本を読んでみた。その中で、夜鷹が出てくる作品のひとつをとてもいいなと感じて。『片えくぼ』と同じように夫婦の話で、ただその話は女性が主人公だったんですね。そこで私は男性をメインにして書いてみようと。先生や仲間がとても褒めてくださった作品なので、いつかどこかに……と思ってきたものの、時代劇は映像だと制約が多いので、なかなかどこにも出せないんですよ(苦笑)。

片えくぼを再生する

あの日の海で知ったを再生する

――『片えくぼ』の、いわゆる落語や人情時代劇のようにいい話で終わらないストーリーはゾクッとしました。

溝田:たしかに、いわゆるいい話や、うまく収まる話は苦手ですね。なんか悔しかったり、情けなかったり……そういうのが好きかな。私の場合は高橋くんと逆で、求められるものじゃなくて自分の書きたいものを書いている。ただやっぱり書く前から何かテーマがあるわけではなくて、観てくださる方、聴いて下さる方が、「こういうところが良かった」と言ってくださって初めて「そうなんだ」と。

 

――『あの日の海で知った』はどんなきっかけで書いたのですか?

高橋:もともとラジオドラマのコンテストに出すために、実は……3時間くらいで書いたもので(苦笑)。

溝田:高橋くんが3時間は早いね。いつもはわりと遅筆なのに。

高橋:何も考えずに書いた感じです。最初のシーンから先の展開を考えずに書き始めて、「おじいさんと少女はどうなるんだろう?」とボクも思いつつ、書きながら展開を考えたという(笑)。

溝田:珍しい、いつもハコがあってきちんと書くタイプなのに。

高橋:短いものだとそうでもないよ。ちょうどその頃、ラジオ番組用に2か月に1本、3分くらいのラジオドラマを作っていたので、そういう書き方に慣れていたのもありますね。

 

――なんとなく「夜の海へ行った経験をもとに書いたのかも?」と思ったりしたのですが。

高橋:夜の海へ行ったことはありますよ。でもフラれた者同士2人で一緒に行ったんで、シチュエーションはだいぶ違うかな(苦笑)。

これは完成してから気づいたことですけど……最後の方で出てくる「寂しさは人類の敵である」というセリフ、あれは当時よく思っていたことなんですよ。今も、どんな人も寂しさには勝てないだろう、人が愚かなことをする時っていうのは大体寂しいっていうのがあるんだろうなと思います。

それで気にし始めたせいかもしれないけれど、寂しい話が好きだなとは感じますね。自分が書いた脚本でも、人に書いてもらった脚本から作る時でも、悲しい感じより寂しい感じの方が好きかもしれない。

 

 

仕事で予算も時間も手法も制約されるからこそ、自主制作は丁寧にやれる方法を選びたい

 

――個々の作品についても、書く前からテーマを決めていたり、テーマが見えていたりするわけではないんですね。

溝田:書く前にテーマがあって書く人と、書いた後に「どういうテーマなんですか?」って聞かれて考えるタイプがいるんですよね。高橋くんも私も、テーマを後から考えるタイプ。お酒をテーマにした『幸世の失恋酒場』みたいに、設定に近い部分で決めておくことはあったけど。

高橋:その設定的なテーマも、ボクがリードして決めたわけではなく「みんなで決めて?」という感じだったので、実は口頭で聞いた以上のことは知らないという。上がってきたシナリオについてしかいろいろ言ってないし。

 

――主宰としてやっているサークルで、制作費も負担するのに、そこまで投げられるのはある意味すごいかも。

高橋:でも女性の話なので、ボクがいろいろ口を出してもしょうがないなって。共感してほしいのにズレてるような作品にはならない方がいいと思うし。

溝田:長く一緒にいるとわかるんですけど……高橋くんは「これが作りたい・作らせて」じゃなくて、“形にする人”なんですよ、常に。みんなが持ってきた素材をどう映像やオーディオドラマにしたらいいかを考えるし、それが上手な人なので。「自分がこう撮りたい・録りたいからこう書いて」じゃなくて。直すにしても「これを画にするとき・音にする時はこうした方がいいと思うんだけど、直してもらえないか」という感じになる。

高橋:紙に書かれたものを立体化していくみたいな、それが多分好きなんです。だから自分で脚本を書かなくても全然平気なんだと思います。

 

——“形にする”にあたって大切にしていることは、どんなことですか?

高橋:そうですね。最近意識するようになって、特に今回『片えくぼ』で目指したのは丁寧に作ることでした。全国ネットのラジオで流れていても遜色のないクオリティに近づけるつもりで。演者の技術的にもそこに近づける目的で作っているので。

「時間がないから、予算がないから、しょうがないよね」という要素をどんどん減らしていって、ちゃんとしたものを作る場にした方がいいよね、と。

溝田:『片えくぼ』の読み合わせの時も、声優さんが喜んでたもんね。「ちゃんと読み合わせがある!」って。

高橋:これまでもスタジオランチボックスはたくさん作品を作ってきていて。基本的には高評価で(笑)。でも突き抜けないというか。「悪くないよね」「良く出来てるよね」みたいな。「そこそこ」感というか。

最近は「そこそこ」でなんとなく納得してしまうのがマズいんじゃないかと感じていて。今は例えば映画『パラサイト』の凄まじいクオリティ、あれが観る側のベンチマークになっている。それなのに、クオリティを脇に置いて「そこそこ」のものをいつまでも作っていたら、そこから抜けだすブレイクスルーのチャンスも、作品を観てくれる人も逃してしまいそうで。

「そこそこ」より上を目指すのであれば、まず手をつけるべきなのは作品づくりのプロセスを丁寧にやっていくこと、例えば決め打ちではなくオーディションをする、オーディオドラマなら事前に読み合わせをする、といったことだと思うんです。

だから『片えくぼ』と『あの日の海で知った』の収録は事前の読み合わせをやったんです。

幸い、今は自主制作の作品でも、いつでも誰にでも観てもらえる発表の場、プラットフォームがある。もちろん、多くの人に観てもらうのは変わらず難しいけれど、そこで公開されている限り、届けたい人に届くチャンスは残っている。だから、自腹切ってでもチャレンジする価値があると思うんですよ。

 

――今取り掛かっている次回作品について教えてください。

 高橋:仲井美樹さんが脚本を手掛けたオーディオドラマシリーズ『幸世の失恋酒場』のシナリオ集を販売します。今オーディオドラマ化されている作品に加えて、書き下ろしが2本収録されるんですが、そのうち1本をゲストとして溝田さんが書いてます。どちらも悪くない。むしろ「これ、おまけで付ける話じゃないんじゃね?」っていうレベルで。

溝田:お酒にまつわる失恋話がテーマのシリーズで、書き下ろし分ではこれまでになかった恋愛の話を書きます。仲井さんは女同士の話、私は妻子ある人の話です。完成間近になって、作品の内容に合わせて掲載順を入れ替えたりして、これも丁寧に作っているので、ぜひ。

このインタビューで紹介されている「片えくぼ」「あの日の海で知った」の収録台本が収録された「スタジオランチボックスボイスドラマシナリオ集VOl.1」はBooth内のオリジナルショップで販売中です。

スタジオランチボックスオリジナルショップ

About the Author

丸田カヨコ @kayoko_maruta
アンテナショップと銭湯と手芸にめっぽう弱いフリーの編集ライター。高橋主宰とはビールの話題が挨拶代わり(鹿児島生まれの芋焼酎党でもある)。タウン情報誌、音楽制作誌を経て、現在は企業のオウンドメディア・SNSなどでビジネス記事から生活情報コラムまで手掛ける。SENQ(http://senq-web.jp/topics)、Craftie Style(http://craftie.jp/style/)、 Handful(https://handful.jp/curation/author/marutakayoko)他に寄稿。