一日早く仕事を片付け、旅に出たのは8月8日。
フリーになって四回目。今年に入って三度目の旅だ。
旅費の心配。仕事の心配。制作の終盤で停滞しているショートフィルムも心配。
くわえて台風の影響も心配だけど、不安におびえて何もしないという選択は最悪。
会社を辞めた意味がない。
好きな事に、できるかぎり多くの時間を割いていきたい。
自由に動ける時間は、いつなくなるか判らない。
飛行機か。はたまた新幹線か。台風のせいでギリギリまで決められなくて
結局、いつもどおり新幹線で岡山へ向かった。
いつもどおりと書いたけど、実は3年ぶり。
国内旅行すら一年ぶり。
見慣れたはずの車窓の景色も、少し前とは変わった気がする。
岡山駅で下車して、ホテルに電話。
前乗りオッケーとの返事をもらい、勇躍南風に乗って瀬戸大橋を超えた。
瀬戸の海に浮かぶ、小さな島が、ゆっくりと車窓を流れ去るのを眺めて、
「あぁ。俺は高知に戻っているんだなぁ」という感慨が嬉しい。
オアゾの丸善で買った旅のお供の本2冊を、読んだり閉じたりを繰り返す間に、
高知駅に着いた。
路面電車で、はりまや橋へ。
例年に比べて人が少なく「静かだな」と思ったけれど、それは到着が一日早いからなのだと思い至る。
祭りが始まるのは前夜祭のある明日9日。今日はまだまだ日常モードなのだ。
俺よりも少し年上の見習いフロントスタッフ相手に、
チェックインを手早く済ませ、市街へ繰り出す。
まずは靴を買わないと。
夏の高知のよさこいはスポーツだから。
日頃履いてるぺらんぺらんのスニーカーでは、とても2日を乗り切れない。
帯屋町の靴屋で、若い店員さんにランニングシューズについて聞く。
「踊り子さんですか?」
さすが察しの良いことで。
靴底が厚い方がいいです!と経験者らしいご意見のもと靴を試着。
ワンオペの彼は、他のお客の対応にも忙しいのに一生懸命対応してくれる好い人だ。
靴屋はワンオペ。ホテルのフロントはそれなりの年齢の見習いスタッフ。
日本の人手不足は深刻だと実感する。
お腹が空いた。帯屋の商店街を店を探してぶらりと流す。
明日から始まる祭りに向けて、地元チームの練習が熱い。
シャンシャンと涼やかな鳴子の音と、チームごとにアレンジをした「よさこい」の曲が、楽しくもあるが、少し煩わしく感じられたりもする。
気持ちも体も、祭モードに入ってないのだ。
大丸近くのひいきの喫茶店に行こうかと思ったが、
ここはガッツリ食いたいところ。
なんとなくひろめに向かって商店街を歩く。
ほにやの店も、明神丸も、俺がよさこいを始めた10年前には、
帯屋の商店街には(確か)なかった。
昔なつかしい商店街という物が、変わらずその役割を果たしているようなこの街も、本当は少しずつその姿を変えている。
ひろめの手前で、スターバックスを見つけて、元来た道を引き返す。
どうせ明日から高知飯をいやという程堪能するのだ。
今日は普通のものがいい。
帯屋を入ってすぐにある広島焼きの店に入った。
広島焼きと中ジョッキを頼み、一人飲む。
なんとなくスマホを確認すると、早めに出した仕事のフィードバックが、これまた早めに打ち返されてきてた。
さてどうするか……。
スケジュールどおりなら、対応は盆明けまでにすればいい。
旅の後でも、きっと文句は言われんはずなんだ。が。
今後の中長期ノマド化計画の肩慣らしにはちょうどいいと、
旅の途上で片付けてしまう事を決意して、
中ジョッキのおかわりと、広島焼きをかき込んだ。