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フリーランス3年目の映像クリエイター。スタジオランチボックス主宰の高橋雅紀がフリーランスとしての気づき、映像制作、シナリオ作成のTipsなどを紹介しています

本の感想『砂漠』伊坂幸太郎

砂漠 (実業之日本社文庫)
 
砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

 

 

 

<特筆すべき点>

★ プレジデントマンや、超能力対決など、非現実的なモチーフでストーリーを構成し、その上で、大小含めた、あるあるな大学生活のエピソードを練り込んでいくことで、これまでに読んだことのないけれど誰もが共感できる青春小説になっていると思いました。

★ 「閉塞感」や「諦観」といった空気が、執筆された当時よりもさらに色濃く漂う現代の日本だからこそ、何事にも真剣に、ちゃかす事なく、熱くぶつかる西嶋のような人物に、襟を正される想いがしました。

★ キャラクターとしてアクのない南を「超能力者」に設定する事で、西嶋、鳥井、東堂といったエッジの立った言動が多い主要人物の中にあっても埋没しないように配慮されているように思いました。

★ 舞台劇を彷彿とさせる日常会話から少しだけ浮き上がった台詞が、会話に独特にリズムを生み出し、それが作者独自の世界観を組み上げていると思いました。

★ 夏編にて、鳥井を励ますためにビルの電灯で作られた「中」の文字は、実際にやったら映える絵になるだろうなと感じました。

◯ 90年代とおぼしき舞台設定で、ほとんどが現代と変わらないために、かえって「携帯を使ってない学生がいる」というちょっとした部分に古臭さを覚えました。

 

< あらすじ>

春編。
仙台の大学に通いはじめた、北村、鳥井、南、東堂、西嶋の五人は麻雀をやったのがきっかけでよくつるむようになる。

卒業したらスーパーサラリーマンになるから学生の今は好きな事をやると、麻雀と合コンに忙しい鳥井。
性格は控えめだが、念力が使える超能力者の南。
モデル並の美貌で、学内の男子を虜にしながら、その全てを袖にする美少女の東堂。
大国の横暴に怒り独特の理論をまくしたてては、回りのひんしゅくを買う(しかし本人は全くどうじない)熱い変わり者、西嶋。

北村は個性派揃いの面々と平凡な大学生活をスタートさせる。
服を新調して挑んだ合コンは、悪酔いした西嶋が独自理論をまくしたて台無しに。
二次会のボーリングでは、北村達はホストに絡まれ、ボーリング対決をすることになる。
それは合コン相手であり、鳥井の女遊びを好ましく思っていない長谷川によって仕組まれたものだった。
お金のかかった鳥井とホスト礼一の一対一のボーリング対決。鳥井はひたすら負け続けた。つり上がった掛け金に言葉をなくす北村達の前に、密かに合コンの様子を尾行していた南と東堂が現れ、再度の対決を申し込む。
ただし、ボールを投げるのは相手は鳥井ではなく、西嶋という条件で。
西嶋は見事、ピンを弾き飛ばし、鳥井が積み上げた掛け金をチャラにする事に成功した。

 

夏編。
仙台で時折発生する強盗事件。犯行の際、被害者に「大統領か?」と尋ねることから西嶋によって「プレジデントマン」と命名された男の居場所を、鳥井が聞きつけた。
若干の不安を感じながらも「面白そうだから」という理由で、彼らはプレジデントマンの正体を突き止めるため、張り込みをおこなう。
そこに現れた黒い車。中から出てきた男はプレジデントマンの自宅へと侵入していく。その中にホスト礼一の姿もあった。

彼らの犯行を止めようとする北村達。
結果、逃げようとするホスト礼一らの車によって、鳥井は左手を失うことになる。
ふさぎこむ鳥井。日頃快活な彼だけに、北村にはどんな言葉をかけていいか判らない。西嶋の提案で、鳥井の家で麻雀をすることになった5人。
西嶋のバカバカしくも掟破りの「ロン!」が、鳥井の心を動かした。

秋編。
五人の関係も少しづつ変化している。
鳥井は南とつきあい、同棲をはじめた。
東堂は西嶋に交際を迫り、そして断られた事がきっかけなのか、キャバクラで働きはじめた。
北村も、だいぶ前から服屋の店員、鳩麦さんとつきあっており、おおむね交際は順調だ。西嶋は殺処分寸前のロートル犬を救出するが、飼う場所が見つからない。

北村は、文化祭で超能力対決なるイベントが開催される事を知る。
出演者の一人の麻生(超能力に否定的)に、好感をいだけなかった北村と西嶋は、
もう一方の出演者、超能力者の鷲尾に、貴重な情報を提供することで、対決を彼に有利な物にしようと画策する。

鷲尾に調査結果を伝え、得意気になっていた北村達。実は麻生と鷲尾がグルだった事を知り、テンションが下がるが、東堂の機転によりイベントの最中に彼らの不正が暴かれ、溜飲を下げる。

冬編。
北村はプレジデントマンに襲われた。咄嗟に「自分が大統領だ!」と切り返す事で事なきを得た彼は、数日後警察が手配した男がプレジデントマンであるかどうか面通しを依頼される。

男はプレジデントマンではなかったが、鳥井の左腕をうばったホスト礼一の仲間だった。北村は開放された彼を尾行し、彼がホスト礼一と今でもコンタクトを取っている事、当のホスト礼一が仙台に戻ってきている事を知り、仲間に報告する。

調査の結果、ホスト礼一らが、再び市内で強盗を計画していることを突き止め、警察に通報するが、それだけでは飽き足らず、張り込みを敢行する。
彼らと警察にプレジデントマンが襲いかかり、現場は騒然となる。
強盗を計画していたホスト礼一らは、計画を延期しその場を立ち去る。

アパートへ帰ろうとしていた北村だったが、ホスト礼一が近くの廃病院に逃げ込んだ事を聞かされる。
途中で出会った南と鳥井の三人で廃病院を尋ね、ホスト礼一を見つける。
力に訴えるホスト達を、鳥井が思いもよらぬ足技で撃退する。
腕をなくした鳥井は、仲間に内緒で阿部薫の事務所に通い、キックボクシングを学んでいたのだ。

思わぬ反撃に退却するホストたちを、南が超能力で追いつめ、捕まえる。

<登場人物>

北村
大学生。鳥居に鳥瞰型(物事を一歩引いて見る)と称される。ごく普通の大人しめの青年。若干シニカルな物言いが多い。

鳥井
北村の友人。実家の横浜から大学入学のために仙台に来る。在学中の事故で左腕をなくす。が、基本的には、チャラいくらいに快活。


北村の友人。朗らかな女性で、かつ念力が使える。後に鳥居のカノジョになる。

東堂
北村の友人。モデル並の美貌を持つ。だが表情に乏しく無愛想。なぜか、西嶋に惹かれている。

西嶋
北村の友人。独特の着眼点から来る自説を空気を読まずに暑苦しく披露して、よく周囲の失笑を買う。あらゆることに一生懸命

鳩麦
仙台市内のブティック店員。フリーター。
後に北村のカノジョになる。

阿部薫
仙台市内にあるジムに通うキックボクサー。
何度もチャンピオンになっている。

プレジデントマン
仙台市内に出没する強盗。強盗時に「大統領か?」という質問をする事から西嶋が命名した。


その他の伊坂幸太郎さんの著書

チルドレン (講談社文庫)

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終末のフール (集英社文庫)

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