「(よさこいよりも)こっちのがキツイ」
傾斜のきつい坂を見上げて、思わずそう呟いた。

陽射しは今日も「殺す気かっ!」ってくらい強烈で、腕には玉の様な汗がビッシリ浮かんでる。
自転車のカゴに入れた麦茶は、ほとんど空だ。
このまま上がっていったら、途中で倒れるかもしれないな……。
命の危険を感じた僕は、元来た道を引き返す事に決めた。

いぬさるきじ号と名付けた自転車に跨がる。
数年ぶりの自転車を、まさか瀬戸内の島で漕ぐ事になるとは思わなかった。
ボクは島の表側へと戻るため、ペダルを踏んだ。


離島。
という物を見てみたくて高松に寄った。
ホテルで瀬戸内の島々を検索し、女木島に決めた。

距離的にも大きさ的にも、半日遊ぶには手頃に感じられたのと、

別名、鬼ヶ島。というのに強く惹かれた。

日本人なら誰でも知ってる童話の島が実在する!
どんな島なのか興味を持つのは当然だと思う。
翌日の朝早く、鬼退治のためにボクは女木島行きのフェリーに乗った。

早い時間にも関わらず客が多い。
帰省時期だから、島に戻る人が乗船してるのかな?と思ったけれど、どうも違う。
みんな手になんやら小さなパンフレットを持っている。

「瀬戸内国際芸術祭2013」

なんと!
かって鬼の住んでいた島は、瀬戸内国際芸術祭の会場になっていたのだ。

15分の船旅の後、鬼ヶ島・女木島に着いた。
早速目についたのは、桟橋の上に並ぶ無数のカモメ……ではなく、カモメのオブジェ。
どうやらこれが芸術祭のオブジェらしい。
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名前だけは知っていたものの、瀬戸内国際芸術祭のシステムを判っていなかったボク。
どうやら、こんな感じで島のアチコチにアート作品が点在していて、それをトレジャーハントのように歩いて探索する感じらしい。

ヤバイ!楽しそう!

こうしてアッサリ鬼退治中止。
代わりにアート探索の島散策が始まった。

とはいえこの暑さの中、歩いていくは嫌だなぁ……。
そう思っていると、フェリーで見かけた乗客が自転車に乗っている。
レンタサイクルがある!

五分後。いぬさるきじ号に跨がったボクはアートを求めて出発した。

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狭い路地がクモの巣のように張り巡らせた集落の中を自転車で走る。
島の住人らしいお婆ちゃんが道の向こうからやってきた。高い自転車に跨がるボクを見て、一瞬驚いた様子だったが、
すぐに「こんにちわ」と挨拶をしてくれた。

会場のアート作品を見学する。
家主がいなくなったのだろう味わいのある古民家の中に、この芸術祭のためだけに作られたオブジェが展示されている。
その二つが、不協和音を起こさずに互いの良さを引き立てていて「場」そのものが持つ力の凄さを感じずにはいられない。

このオブジェが都内の美術館に展示されていたとして、今ボクが感じている存在感を感じる事はできない気がしたのだ。

2013-08-13 11.00.48
お供を適当に走らせると、集落を抜け浜に出た。
さして数の多くない海水浴客を横目に見ながら、島の裏側へ続く道を走る。
道は程なく、浜を離れ、山の中へと入っていった。

腰をサドルから浮かせ、グイッグイッとペダルを踏みこむ。
すぐに息は上がり、額からつたい落ちた汗が、顎の下からポトポトと落ちていく。
……。
諦めて、いぬさるきじ号を降りると、ボクはふがいないお供を手で押しながら斜面を上がった。

道の両脇に立つ木々。
その木々の枝がワサッと頭上に覆い被さっていて、緑のアーチのようだ。
道に落ちている松ぼっくりに、木漏れ日がスポットライトの様に当たっている。

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坂を上がりきった。
長く、ゆるやかな、下りの坂道が眼前に広がっていた。
車も人影もない。

再び、お供に跨がると、坂を下った。
風が気持ちいい。